ひと駅ごとの小さな旅

嵐電天神川駅

「文化の街」美しいものに触れられる場所

嵐電天神川駅

嵐電天神川駅

嵐電天神川駅に降りるのは、これで3度目だ。
2度とも本を探しに来た。

駅のすぐ近くには京都市右京中央図書館がある。
この図書館は蔵書が多く、当時わたしが求めていた資料のほとんどが揃っていた。取材記事を書くのにどうしても読んでおきたい資料だったので、とても助かったのを覚えている。

出不精なわたしだが、本に連れられて外に出ることは多い。
1冊の雑誌の中身を確認するためだけに東京の図書館まで行ったこともある。求めていた文章を見つけたときには、声が出そうになって鳥肌が立った。こんないい図書館のある街に住めていいですねと、ほくほくしながらまわりの人々を眺めたのを覚えている。

自分が住む街に何が必要かは、人それぞれによって違うだろうけれど、わたしにとってのそれは「図書館」だ。蔵書の多い図書館があれば、だいたいどこでも生きていけると思う。だから嵐電天神川駅は、自分にとって「住む街」の候補のひとつでもある。

駅から出て、図書館の下にある不動産屋さんの賃貸物件を見ながら、あるかもしれないもうひとつの人生を想像した。

嵐電天神川駅

猿田彦神社

まずは駅から天神川のほうへ向かう。
川沿いに南へ下がって橋を渡ると、猿田彦神社が見えた。
緑に囲まれた神社には、先客の女性がひとりいて、熱心に参拝している。手水場で手を清めて鳥居をくぐろうとしたら目が合い、ふたりでなんとなく会釈してすれ違った。

この神社は、平安時代に創建されたと言われているのだそうだ。
京都三庚申のひとつで、庚申信仰発祥の地と伝えられているらしい。今も、初庚申日には祭典、また直後の日曜日には護摩奉修が盛大に行われ、敬神婦人会による甘酒の接待もあるそうだ。

拝殿の真ん中には、ご祭神である猿田彦大神の写真が飾られている。
目が光ったように見えたのでじっと見つめてみたが、気のせいだった。

嵐電天神川駅

樹齢700年を経ていると言われている、「庚申楠」。
大きな樹というのは、触ってみるとなぜか温かい。この樹にも手のひらを当ててみたが、やはり温かくなんだか嬉しくなった。700年間もここで見てきた風景というのはどういうものなんだろうと思う。

樹の足元でお賽銭を投げお参りをする。この樹には、ここで願い事をする人間なんて儚く見えるのだろうなと思った。人はどんどん移ろいゆく。

嵐電天神川駅

京都dddギャラリー

猿田彦神社を出て、ふたたび天神川沿いを歩く。今度は北へ。御池通を通り越せば、左手に京都dddギャラリーが見えてくる。大日本印刷株式会社が開設し、現在は公益財団法人DNP文化振興財団が運営しているギャラリーだ。

ここでは今、三重野龍さんの展示が行われている。彼は京都を拠点に活動している1988年生まれのグラフィックデザイナーだ。一目見ただけで「三重野さんのデザインだ」とわかるくらい、オリジナリティのある方。
共通の友人が多いのだが、話したことはない。ただ、彼のデザインしたキャップやステッカーは持っている。つまりただのファンである。

嵐電天神川駅

入り口を入り、まずは物量にびっくりした。三重野さんがデザイナーとして活動してきた9年間に作ったもの、ほぼすべてが展示されているらしい。

入り口すぐのところに掲示されていた紹介文を読む。
「大手クライアントの仕事やデザインコンペでの受賞を通じたキャリア形成が従来の若手グラフィックデザイナーのメインストリームだったとすれば、三重野龍は、そうしたメインストリームから距離を置き、オルタナティブな独自のスタンスで活躍しているデザイナーです。
彼の活動の特色は、京都を拠点に同世代の仲間たちとのネットワークを通じて、自分のやりたい事だけをやってきたという点にあります」

このように、自身の活動が言語化され、集約され、それを見てもらうというのは、どういう気持ちになるのだろう。自分の流れにいったん区切りがつく感じだろうか。これからの三重野さんは、どんなふうに活動していくんだろう。

同じ街に住む同年代の者として、刺激を受けた。わたしもがんばらなくっちゃ、と思う。
「自分のやりたい事だけをやってきた」って、すごく大事だ。それは多分、メインストリームとは別のもうひとつの流れをつくるときに、不可欠なことなのだろうと思う。

嵐電天神川駅

きあっそ

お腹が空いたので、京都dddギャラリーのすぐ隣にある「きあっそ」というイタリアンレストランに入った。さっきこの前を通ったとき、オープン前から人が並んでいたので、人気のお店なのだと思う。わたしが入ったときにはすでに席の大半が埋まっていて、ご近所の奥様がたらしき女性の方達で賑わっていた。

週替わりメニューの中から、「チキンとアスパラの白ワイン仕立て」のパスタを選んだ。それにパン、サラダ、食後のお茶がつく。ソースがおいしくて、ちぎったパンですくって食べた。

嵐電天神川駅

レジでお金を払ったら、店員さんにチラシを手渡された。12月22〜25日限定で、クリスマスディナーコースが楽しめるらしい。
コース内容を眺めながら、毎年ここにディナーをしにくるカップルもいるのだろうなということを思った。あるいは夫婦で、友人同士で。
わたしは自分の住む街にあるレストランのことを思った。あのレストランでも、クリスマスディナーの準備をしているのかな。よその街に出ると、自分の街のことを思い出す。

嵐電天神川駅

大和学園 Taiwa Museum

お腹がいっぱいになったので、少し歩き回ってみようと思った。
御池通に面したところに、大和学園の京都調理師専門学校という調理師やパティシエを育てている専門学校があって、奥まったところには食文化のミュージアムがあった。

入ってみると、御節料理展をやっている。京都調理師専門学校の教員チームが作製した御節料理とのこと。きらきらして、まるで宝石みたいな料理の数々。
御節料理はもともと武家の祝膳だったみたいだけど、今ではかなり自由になっているらしい。確かに「蛸のマルサラ煮込み」とか「白味噌のピクルス」とか「黒豆モンブラン」とか、自由な面々だ。どんな味なのか想像するだけで楽しい。

嵐電天神川駅

右京中央図書館

最後に、右京中央図書館へ行った。

自分の住んでいる街以外の図書館に入るのは少し緊張する。右京区民の顔をして入ったが、そのように見えただろうか。わたしが住んでいる街にある左京図書館よりも、広くて蔵書が多いなと思う。

入ってうろうろしてみると、いろんなフェアが作られていておもしろかった。
「今月の司書おすすめ本」では「一度も借りられたことがない本 最初の読者になりませんか」というテーマで、それだけでも興味をそそられるし、
カウンター前には「かばんにもう一冊いかがですか?」と、スーパーのレジ前のガムやキャンディのように、ハンディタイプの持ち歩きやすそうな本が面陳で置かれている。

本をおすすめするためのこういう工夫が、本当におもしろい。司書さんの思いが感じられる、良い図書館だなあと思う。図書館の良い街は魅力的。やっぱりこの街、いいな。

嵐電天神川駅

再び、嵐電天神川

駅に帰ってきて、「楽しかったな」と思う。
最初に神社に参拝したあとは、グラフィックデザインに、料理に、本、いろいろな作品に触れることができた。

そう考えてから、「あっ」と思う。もしかしたら、わたしが住む街に求めているものは「図書館」と言うよりも「文化」なのかもしれない。誰もに開かれ、無料で提供される文化。
文化のある街は豊かで、それが開かれている街は優しい。かっこいいもの、かわいいもの、美しいものは、それだけで人の心を癒すから、それらに触れられる空間がある街は優しい。

そして、そういう場所があるということは、文化を楽しんでもらおうと思っている人もそれだけ存在しているということだ。
そういう人がたくさんいる街は、豊かでやっぱり優しいなと思う。

土門 蘭(どもん らん)

1985年広島生。小説家。京都在住。ウェブ制作会社でライター・ディレクターとして勤務後、2017年、出版業・執筆業を行う合同会社文鳥社を設立。
インタビュー記事のライティングやコピーライティングなど行う傍ら、小説・短歌等の文芸作品を執筆する。
著書に『100年後あなたもわたしもいない日に』(共著・文鳥社※刊)、
『経営者の孤独。』(ポプラ社刊)。
近日、長編小説『戦争と五人の女』(文鳥社※刊)発刊予定。

「※社は旧漢字」

Information

猿田彦神社

猿田彦神社

住所:
615-0073 京都市右京区山ノ内荒木町3
ホームページ:猿田彦神社web

TEL:075(312)0474 [春日神社社務所]

京都dddギャラリー

京都dddギャラリー

住所:
〒616-8533 京都府京都市右京区太秦上刑部町10
営業時間:11:00〜19:00(土曜は18:00まで)
定休日:日・祝日
ホームページ:http://www.dnp.co.jp/gallery/ddd/

TEL:075-871-1480

きあっそ

きあっそ

住所:
京都市右京区太秦下刑部町159 Paese御池1F
営業時間:11:30〜L.O.15:00 17:30〜L.O.22:00
定休日:月曜日(ただし祝日の場合は営業)
ホームページ:https://tabelog.com/kyoto/A2601/A260402/26021734/

TEL:075-871-5820

大和学園 Taiwa Museum

大和学園 Taiwa Museum

住所:
〒616-8083 京都市右京区太秦安井西沢町4番5
営業時間:月~金 10:00~16:00
休館日:土日祝、年末年始、学休期間中は休館
※休館日、開館時間は予告なく変更する場合がございます。
 ※予約必要な日あり。

 入館料:無料
ホームページ:https://www.taiwa.ac.jp/museum/

TEL:075-802-0191

右京中央図書館

右京中央図書館

住所:
〒616-8104 京都府京都市右京区太秦下刑部町12
休館日:火曜日(火曜が祝日・休日の場合は翌平日)、年末年始
開館時間:平日:9:30〜20:30
土・日・祝日・休日・12月28日:9:30〜17:00
7月8月の土曜日:9:30〜19:00(祝日の場合は17:00まで)
※児童だけでの利用は17:00まで
ホームページ:https://www2.kyotocitylib.jp/?page_id=221

TEL:075-871-5336

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